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歯が割れた - 歯根破折の症状と治療

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歯根破折は気がつきにくい

▲歯根破折は、「さし歯」の治療から5~ 10 年後に発生する頻度が高まります

■破折しても、自覚症状がほとんどない!

歯根破折は、自覚症状がない場合がほとんどです。そのため、治療の機会をのがしてしまうことが多いのですが、時間が経てばたつほど重症になり、治療も難しくなってしまいます。

しかも、高齢になってから気が付いた場合、別の病気が影響して、歯の治療が難しくなるケースもありますから、早めの受診が必要です。

■こんな症状は、歯根破折の疑いがあります。

きちんと治療をしてあるはずの歯が急に痛みだしたり歯茎が腫れたりした場合は、この歯根破折がまず疑われます。歯根破折は、軽度の虫歯治療の場合にみられることではなく、いわゆる「さし歯」などの治療を行った歯に多くみられ、それも治療後治療後5~ 10 年という長い年月を経てから起きるトラブルです。

こんな症状に、要注意!

・噛み合わせると痛んだり違和感がある
・歯茎にニキビのような小さな腫れ物ができ膿が出る(専門的にはフィステルという症状)。
・歯茎が腫れる
・歯がぐらついている感じがする
・差し歯が取れてしまう(歯根破折によってさし歯を維持できなくなっている症状)

歯根破折になってしまっても…

あきらめないでください! 破折した歯でも治療法があります。

■破折歯の治療法

歯根破折を起こした歯は、そのまま抜かれてしまうケースがほとんどです。抜歯後の治療には、ブリッジや入れ歯、インプラントといった方法がありますが、噛む力は、自然の歯には及びません。

「よく噛めること」は、高齢者の健康や、生きている事の幸せにつながります。できれば、歯を抜かずに残せる治療法を選択することが大切です。 割れた歯も初期の段階であれば、最新の接着材で割れた部分を修復し、新しいグラスファイバーの支柱を立てる方法で治療し修復する事ができます。

また、破折に気づかずに放置され割れた部分が分離してしまったような歯の根であっても「再植」という治療法を用いれば、割れた歯や欠けてしまった歯を以前と同じように使えるようになります。

■症状により、二つの治療法があります。

破折治療は、眞坂歯科医院の会長・眞坂信夫氏の40 年に及ぶ接着治療研究の成果によって、破折歯の治療方法を確立しています。豊富な治験により、経過・維持も良好な結果を得ています。

1.口腔内接着直接法
歯根破折による歯の周りの組織炎症が少ない場合に適用する方法です。治療が容易で受療者の負担が少ないため、可能な限りこの術式を適用しています。 しかし、条件が悪かった時には術後に破折汚染部に起因した歯周炎を発症する場合があります。このような場合には、歯の根の外側から破折部を清掃修復するために、歯茎を切り開く「歯肉剥離手術」、あるいは歯を抜歯して元へ戻す「再植法」を適用します。

2.口腔外接着再植法
割れた歯が長く放置された場合には破折部が開き分離してくるため、そのままでは修復できない状態になります。このため、一度抜歯して口の外で歯の破折片を接着し、それを元の場所へ戻す「再植法」の適用となります。

「再植」という治療法
再植というのは、一度歯を抜いて口の外に取り出し顕微鏡で見ながら、炎症のある悪い部分を処置して割れた部分を接着してから再度元の場所へ戻す方法です。治療上の理由から行うので「意図的再植」といわれています。 意図的再植は、抜歯以外に治療法がないとして捨てられてしまう運命にある歯を救うための最後の手段とする方法で、かなり特殊な治療法といえます。しかし、抜歯した後に入れ歯を覚悟した受診者にとっては、入れ歯ほどお金もかからず、しかも自分の歯が甦る可能性があるわけですから、試みる価値のある治療法です。

① 割れた歯を、歯根膜を傷つけないように抜きます。
② 病気の部分を処置して、割れた歯を接着します。
③ 再び元の場所に戻します。

■再植はなぜ可能か?

現在は歯の再生に成功する確率が非常に高くなっています。それは歯根膜や骨組織に関する病理学的研究と治療技術が進んだことに加え、手術後の傷口を保護したり固定したりする接着性のMSB パック(眞坂式スーパーボンドパック:注1)を開発したことによります。 また、再植を成功させるためのもっとも大切なことは、歯の再生に重要な役割を果している歯根膜( 注2) の損傷がどの程度かという事です。成功率の高い再植ですが、歯根膜が大きく無くなっている場合には再生が無理となります。また、抜いてみて肉眼で確かめた結果、再植しても再生が無理であると判断する場合もあります。

残念ですが、歯を残せない場合もあります

①歯の割れ方が複雑で接着修復が不可能な場合
②破折による炎症組織、骨吸収が予想以上に進行していた場合
③レントゲン診査やコンビームCT 診査から読み取ることが
不可能な病変が存在した場合


(注1) MSBパックとは

再植した歯を任意の位置に固定するために用いるのが接着性パックで、眞坂歯科医院の会長・眞坂信夫氏の開発によるMSB パック(眞坂式スーパー ボンドパック)を言います。これは歯の固定だけではなく手術後の傷口を良好に保護することが病理組織学的に証明されました。歯の象牙質に接着する歯科用接着剤として世界で最初に開発されたのがスーパーボンドC&B という医薬品です。眞坂氏はこのスーパーボンドC&B の臨床試験を 開発者の増原英一先生に依頼され(1980 年)、以後、臨床応用で多くの実績を積み上げてきました。その成果の一つがMSB パックです。

(注2) 歯根膜とは 歯根膜は、歯とその土台となる骨とをつなぐ役割を果たしているごく薄い(0.25㎜± 50%程度)組織です。歯根と歯槽骨との間でクッションの役割を果たすと同時に、歯根膜を通る血管は歯周組織に栄養を送り、神経は歯の受けた刺激を脳へ伝えます。 また歯根膜は骨を作る能力をもっています。したがって、歯根膜が健全な状態で移植・再植ができれば、植えられた歯は歯根膜の作用によって回りに骨ができ、徐々にその機能を再生していくのです。ただし、歯周病に限っては、この歯根膜が細菌に よって犯されてしまうので歯がグラついた挙句に抜け落ちてしまいます。抜けた歯は歯根膜を失っているので、再植はできません

破折歯治療法の実例

1. 継続歯の動揺で来院。ポケットの深い位置にガッタパーチャのアクセサリーポイントを挿入してレントゲン撮影を行なった結果、歯根破折を疑った。

← レントゲン検査で破折を確認

2. 破折歯片が頬舌方向に大きく分離し、そこに芽組織が入り込んでいる状態であった。プローブを使って探査すると頬舌部に骨がなく、フェルールが全くない残根状態であるため、保存は難しいと診断した。 この歯を残したいという受診者の強い要望があったため、最終的には回転を伴う意図的再植法を適用することにした。

←歯根破折。しかも保存が困難な残根状態である

3. 破折歯は歯根膜炎症の広がが大きいため抜歯は容易である。


① 破折は遠心方向に向かい歯根長の2/3 まで達している

② 生理食塩水の注水下で把持鉗子や圧接鉗子を使い歯根膜の損傷を最小限に押さえながら接着操作を行う

③ 抜歯窩の不良肉芽を十分に掻爬したうえで、整復し汚染部を処理した歯根を90度回転した状態で戻す

④ 歯根を保持と創面の保護のためMSBパックを行う

破折は遠心方向に向かい歯根長の2/3 まで達しているが(①)、残り1/3 でポストの維持を負担できるため条件が良い。

整復し汚染部を処理した歯根(②)を元の歯槽窩に戻すが( ③ )、この時目的とする位置に歯根を保持することと創面を保護する目的でMSBパックを行なう( ④ )。 この再植法は術後疼痛が少ないことで受診者に喜ばれる手術法であるが、それはMSBパックの効果であると考える。

4. 歯頚部歯肉の炎症が落ち着いたら(5~7日後)歯肉部分のパックをラウンドバーで削り落とし、歯間ブラシでの清掃が出来るようにする。これには外観を良くする目的もある。

5. 3~4週間後、再植歯の安定が確認できたら修復処置に入る。破折線の走行方向で回転処置の状態が確認できる 。

6. 治療直後(左)と、14 年5月経過後(右)の正面像

治療後は定期的にメンテナンスで来院しているため、長期に渡る経過が追えている。14 年経過時に於いても歯肉退縮があるが、臨床症状は認められない。

 

破折歯根接着治療は、

日本で開発された接着性セメント、スーパーボンド(4-META/MMA-TBBレジンセメント)が発売された1982年に、当PDM21東京スタディグループ創設者、故眞坂信夫が始めた治療法です。40年近くにわたり商業誌・学会誌に症例報告をしてきました。2000年前後より北海道大学の菅谷勉先生が科学的検証を始められて学会に報告し、その後も数々の大学の研究者の方々が検証を続けてくださり近年有効な治療法として歯学部の教科書にも掲載されるようになりました。しかしながら、割れた歯を修復した上で、大きな力がかかって常に濡れているお口の中で機能させていくためには、正確な診断と数々の繊細な技術と管理が必要な高度な治療法です。最大の注意をもって治療しても、約40年間の統計で5年時90%, 10年時の生存率が66%という特徴があります。治療した歯の半数が失われるまでの期間は約16年です。垂直に入ったヒビが見つかった状態で何もしないでいると、約2年で半数の歯が抜歯に至るという報告があるため、破折歯根接着治療は歯を救い機能期間を延ばす治療ではありますが、ブリッジでは15年時の生存率が66%, インブラントは20年時に86%が抜かれないで使用されていたという報告があります。本治療法を選ぶ際には、十分な知識と技術をもって説明してくれる歯科医院を選択することをお勧めいたします。

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