眞坂歯科医院 眞坂 こづえ

 

ベリプラストは、血漿分画製剤で、フィブリノーゲンとトロンビン、血液凝固因子などが主成分ですが、ふと、過去大学院で骨形成の研究をしていた時に、大学院の一つ上の先輩が、チタン上のフィブリノーゲンが骨形成に及ぼす影響について研究していたことを思い出しました。

自分の中で整理をしたかったので、今回まとめてみたものを共有させて頂きたいと思います。

 

ベリプラスト          PRP(Platelet Rich Plasma)多血小板血漿

抽出成分  血液からエクソソーム成分抽出   自己血液から多血小板血漿抽出

主な作用  細胞間の情報伝達の活性化     成長因子による組織修復

 

長尾先生の文献より

フィブリノーゲンは血液細胞をマクロファージ・好中球に分化させる。

フィブリノーゲン上では骨髄細胞をマクロファージにより多く分化させ、好中球への分化は血液細胞に劣った。(マクロファージは破骨細胞に分化する)

フィブリノーゲン上では、骨髄細胞の破骨細胞への分化が増加し、骨芽細胞への分化が減少した。

フィブリノーゲンとBMP-2を同時に作用させると、骨髄細胞の破骨細胞への分化は減少し、骨芽細胞への分化は増加した。

 

チタン上でフィブリノーゲンが血液および骨髄細胞の機能に及ぼす影響

長尾浩志 口病誌 65(1): 53-63, 1998

https://www.jstage.jst.go.jp/article/koubyou1952/65/1/65_1_53/_pdf/-char/ja

 

フィブリノーゲンは、血液細胞や骨髄細胞をマクロファージなどの炎症性細胞に分化させ、分化したマクロファージは破骨細胞へと分化することがわかりました。

 

そして、破骨細胞は、骨芽細胞を誘導して骨形成を導くことがわかっています。私自身の大学院時代のチャンバー実験でも、ラットの腹腔内に埋入した、骨髄入りのチャンバーの外側に、軟組織が大量に付着して軟組織の下・チャンバーの外側に異所性に大量に骨が形成された成長因子の組み合わせがあったのですが、組織を観察するとチャンバーの半透膜に沿って破骨細胞が大量に観察されたことが思い出されました。組織染色すると並んだ破骨細胞が赤く染まって綺麗だったことを思い出します。

 

https://www.researchgate.net/publication/351579500_Effect_for_Bone_Formation_by_Combined_Application_of_Growth_Factors_Using_Diffusion_Chamber_Inoculated_with_Bone_Marrow_Cells_rhTGF-betal_and_rhBMP-2_Promoted_Extrachamber_Bone_Induction

 

多量の骨形成が見られる場所に、多量の破骨細胞が見られることが当時から不思議だったのですが、不思議なままにしてしまっていたので、今回すこし調べてみました。

 

骨折の治癒機序

 

文献②より引用

 

炎症期 (〜4日) 血腫の形成(フィブリンを主成分とする)→マクロファージ・リンパ球などの炎症性細胞や未分化間葉細胞が血腫内に遊走する。血腫の中の血小板に含まれるTGFβ, PDGFなどが放出され、未分化間葉細胞を分化させる。一方マクロファージなどにより死細胞やフィブリン分解物の除去が進み、血管新生や間葉系幹細胞の導入を可能とする。

 

修復期 (4〜10日)

 

軟性仮骨形成期 骨折部の間隙に、未分化間葉細胞が軟骨細胞や骨芽前駆細胞に分化し、それぞれ軟骨基質と線維性骨基質を形成する(軟骨性骨化)。これらの基質が血腫と置き換わり、骨折部分がずれにくく安定した状態になる。

硬性仮骨形成期 破骨細胞が軟性仮骨を吸収すると同時に、骨芽細胞が骨基質を産生することにより、軟性仮骨が徐々に骨に置換され硬性仮骨に変化する。

 

膜性骨化 骨膜が肥厚し、骨膜下に骨組織(硬性仮骨)が形成される。骨折後2週くらいまでに、仮骨形成はピークに達する。

 

リモデリング期 (10日〜4週)

軟骨性仮骨内では、その後血管が軟骨に侵入して、肥大化した軟骨細胞はVEGFなどの血管新生因子やMMPなど軟骨組織の吸収に必要なプロテアーゼを大量に産生し、最終的にアポトーシスによって細胞死に至る。その後、石灰化軟骨に進入してきた血管により、骨芽前駆細胞がリクルートされ、骨芽細胞に分化して1次海面骨を形成する。その後は石灰化軟骨が破骨細胞により吸収されるにしたがって、骨芽細胞が成熟した海綿骨組織(2次海綿骨)を形成し、構造変化していく。この過程で骨芽細胞の一部は骨基質中に埋伏され、骨細胞(Osteocyte)となる。

 

 

文献① 骨折骨癒合研究の最近の進歩 ― 分子細胞生物学の視点から ― 中 島 新 ほか 〔千葉医学 86:83 ~ 91,2010〕https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900066680/86-3-83.pdf

 

文献② 骨の修復と再生のメカニズム 畔津 佑季他 昭和学士会誌 第84巻 第 5 号〔 350-357 頁,2024 〕https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/84/5/84_350/_pdf/-char/en

 

 

このように、骨形成において、軟骨基質を破骨細胞が吸収したのちに骨芽細胞が誘導されて骨形成を行う、1次海綿骨を破骨細胞が吸収したのちに骨芽細胞が2次海面骨を形成するなど、破骨細胞の出現が骨芽細胞の分化に先導している様子が見られます。私の学位研究は、BMP-2とTGF-βの組み合わせでの異所性骨形成の発見でしたが、両者の組み合わせでまず破骨細胞が膜に沿って分化誘導された後に、骨芽細胞が血管系の間葉幹細胞から分化誘導された可能性を考えています。

 

大昔の大学での研究の記憶が、20年以上経って新しい治療技法につながってくるのは、とても感慨深く感じました。