皆様寒い冬をいかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科院長の大村です。ここ札幌は例年に比べて雪が少ない為、自宅の大変な除雪作業や車通勤時の渋滞もほとんどなく、このブログを書いている1月30日現在までは過ごしやすい冬となっています。昨年は1月末と2月初めに2回観測史上最高のドカ雪が降り、最初のドカ雪の朝は夏道なら車で20分の 通勤時間が何と3時間近くかかってしまい(開業して26年になりますが初めての経験で した)、診療開始時間にも遅刻してしまいました 。JRは終日運休となり、バスも車も大渋滞の為、診療自体を取りやめた歯科医院もありました。除雪作業も少々の雪であれば健康に良いのですが、ドカ雪の除雪は腰にきますし、オペの時に腰が痛くて手が震えては困りますよね~(-_-;)。

さて本題のブログに話を移します。私が眞坂信夫先生から破折歯接着保存治療の手ほどきを受け、積極的に破折歯の治療を行うようになったのは2010年からですが、実はそれ以前にもその歯を保存する価値が十分あると私自身が考えたケースに限り、破折歯の接着保存治療を行っていました(前回2022年8月19日のブログ「眞坂先生との思い出と私の破折歯保存第一症例」では23年前に行った患者様の治療例を掲載しました)。

本日お話しさせていただく患者Ⅰさんの破折歯もまさにそのような歯でした。2000年、当時63才で当院に来院された時、上顎はすでに歯がなく総義歯、下顎は前歯と左下に1本だけ奥歯が残っており部分義歯が装着されていました。

大村修一先生_図1

2000年初診来院時

 

Ⅰさんの主訴は、

  • バネの部分の見た目が悪くよく噛めない(下顎)
  • 装着感の良い軽い義歯(上顎)を入れたいとのことでした。

2001年治療終了時の状態です。

大村修一先生_図2

2001年治療終了時(右は義歯を外した状態)

 

下顎はコーヌス義歯というバネのない二重冠義歯、上顎は軽くて生体親和性の良いチタン金属床義歯を作製しました。治療終了後調子は良く、Ⅰさん曰く「義歯のように見えない」「何でも食べられる」とのことでした。

その後しばらく経過は良好だったのですが、治療終了7年目、平成20年に右下犬歯が 腫れたとのことで来院されました。調子良く噛めていたことと引き換えに歯に負担をかけ続けたことが、結果として金属ポスト先端部での歯根破折を引き起こしてしまいました。

大村修一先生_図3

2008年右下犬歯の状態 頬側の瘻孔(膿の排膿路)に造影性のあるお薬を 入れると金属ポスト先端部に行き当たる

 

こういうタイプの下顎義歯(コーヌス義歯)はカメラの三脚と同じで足が一つなくなってしまうとバランスが悪くなります。今回歯根破折を起こした右下犬歯を失ってしまうと、 その後は左下の内冠が装着されている2本の歯に大きな負担がかかります。即ち、右側で噛むと左下2本の歯は右に揺さぶられやすくなり、結果、左下にも歯根破折やコアごと脱離等のトラブルを引き起こすリスクが増します。Ⅰさんと相談の上、歯周外科処置による口腔内接着法という方法で右下犬歯の接着保存治療を行うこととしました。

2013年(治療終了12年後、接着保存治療5年後)の状態です。何事もなかったかのように問題なく経過しています。

大村修一先生20230208_図4

治療終了12年後、接着保存治療後5年後

「とにかくよく噛める」「ここで(破折した右下犬歯)で食べると食事が美味しい」とのこと(ひえ~~、😅)。「一度割れの入った歯なので、くれぐれも加減して優しく噛んでくださいね」とお話ししました。

Ⅰさんはパーキンソン病を患い年々歩行が難しくなりながらも、年に2回、車で30分くらいのご自宅からタクシーで来院されていましたが、治療終了17年後(接着保存治療10年後)を最後に施設に入居されることになり、大変残念なのですが当院でのメインテナンスを継続することが困難になってしまいました。

2018年最後の来院時にお撮りしたレントゲン写真です。

大村修一先生20230208_図5

治療終了17年後、右下犬歯は接着保存治療10年後

 

幸い息子さんが当院の患者様でしたのでその後の近況もお聞きしてはいましたが、今回この記事をPDM21メンバーズブログに掲載するにあたり、直接息子さんにお電話をしてみました(息子さんは60才で税務署を定年退職し、その後独立開業を控え現在準備期間中で、当院に何度か予約のお電話をくださっていたようなのですが、アポイントがなかなか 取れないこともあり、気づけば1年メインテナンスが空いていました)。

あれから5年経っていましたが今もご健在で、歯、義歯とも調子良く使えているとのことでした~😊。長いメインテナンスの中で上下顎義歯とも一度ずつ義歯の裏の貼り直しを行ってはいますが、64才から現在86才までの22年間を下の前歯の虫歯の治療以外は再治療なく歯の喪失もなくⅠさんは過ごされているようです。

2008年右下犬歯に歯根破折を生じた時、割れているから抜歯もしくは割れは仕方ないものとして消極的経過観察をしていたら、その後の15年間で右下犬歯の抜歯は言うまでもなく、左側の2本の支台歯にも負担がかかりトラブルの連鎖を引き起こした可能性は高いと思います。治療の難しい1本の歯の保存に努めることは、単にその歯を残すという価値のみならず、次の抜歯予備軍となる歯の保存にも繋がっていきます(それにしても金属ポストのやり直しもしていない右下犬歯は、上顎が総義歯とは言えコーヌスの支台歯ですので接着保存治療後15年、よく持ちこたえているものです)。

見栄えの良い、快適な、よく噛める義歯を長く維持できたことで、Ⅰさんのかかりつけ歯科医として、ⅠさんのQOL(quality of life、生活の質)の向上に確実に貢献できたのではないかと思います。初診来院時60才前後であった患者様が20年、25年経って少しずつ通院できなくなっていく状況はとても悲しいのですが、お元気で通院していただけている間は患者様のアンカー(生涯のかかりつけ歯科医)として責任持ってメインテナンスし続けたいと考えています。

 

なえぼ駅前歯科医院

院長 大村 修一

 

大村修一先生20230208_図6

2013年山中湖セミナーでの集合写真