病気が癒え、治療が完了すると、よく、治療がうまくいった、うまくいかなかったという話になります。しかしながら、ふと考えてみると治療の成功とは一体何なのか、考えさせられることがあります。
がんの手術であれば、がん組織をすべて取り除き、その後、転移も無く、5年の生存が果たせれば成功と言えるのでしょうが、成功の定義が難しい場合の方が圧倒的に多いように思います。

ある人が下肢の痛みで思い切って脊椎の手術を受けたところ、「手術は大成功と医者は言うけれど、足の感覚は元には戻らず期待外れだった」と嘆いておられました。この場合、「医学的には脊椎の問題は取り除かれたのだから治療は成功」、という[医者の言い分]と、「手術を受ければ身体は元通りになる」と期待していた[患者の言い分]とには乖離があり、医者が考えるほど、患者の治療に対する満足度は高くないように思われます。

翻って私の専門である歯科治療について考えて見ましょう。
まず補綴(ほてつ)治療です。補綴治療とは、インプラント・ブリッジ・入れ歯などで、失われた歯の一部あるいは全てを補う治療を指します。インプラントの場合、自分の歯と同じように良く噛めるようになったが、以前より歯の根元に食べ物が挟まりやすくなった、ブリッジの場合、噛めるけれど、歯の掃除に時間がかかるようになった、入れ歯の場合、硬いものは食べられない、入れ歯の下に食物が入ってしまう、バネが見えて気になる、毎日外して掃除が面倒などのご不満が出ることが想定されます。
ただ、殆どの患者さんは、失った歯の代替物なので、全くご自分の歯と同じようにはいかないと、ある程度は納得して頂いているように感じます。

歯根破折保存治療の結果についてはかなり個人差があり、どの歯を治療したのかわからないくらい以前と同様に噛むことができる方もいらっしゃいますが、硬いものを噛むと違和感があり、全く元通りとはいかない方もいらっしゃいます、それでも、皆さん、歯を失わずに済んで良かったとおっしゃって下さいます。

こう考えると、歯科に限らず、医療全般において、100%、元の状態に戻すことは難しい場合の方が多いように思われますが、それではこれらの治療は不成功なのでしょうか。こういった性格の治療に於いては機能や形態の回復が100%でなかったとしても、患者さんに納得していただけるようであれば、医者側の勝手な言い分かもしれませんが、成功と考えて差し支えないのではないでしょうか。

医者が考えるところの治療の成功と、患者さんの満足度、その乖離をできるだけ少なくすることが医療としては望ましいのですが、現実にはなかなか難しい場合も多いのが実情ですね。

吉田デンタルクリニック

吉田 浩一

 

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