「ヒビが入ってるから抜くことになりますね」

「腫れているのは根がおれているからです。残念ながら抜くことになります」

 

以前の私が、ほぼ躊躇することなく患者様に伝えていたセリフです。

 

ここには「何とかして残せないか」「主な原因は何だろう?」といった視点がほとんどなかったことに、今更ながら情けない気持ちになります。

私が歯根接着法を知ったのは、確か歯科雑誌であったと記憶しております。大学病院に在籍中、スーパーボンドの接着力の秀逸さを知っていたつもりでしたので、歯根部破折の接着には大変に関心をもっておりました。

 しかしながら、どこかに半信半疑の念もあったが故に、積極的に臨床へ取り入れようとは考えておりませんでした。

 ある日、出入り業者の主催の眞坂先生の『1日接着ハンズオンセミナー』を紹介されました。またと無い機会と思い参加致しました。その時の衝撃は今でも忘れられません。その時のテキストを元に、早速臨床に取り入れたことを思い出します。しかしいざ実践してみると、眞坂先生がセミナーで簡単そうに実演されていた事の凄さを思い知らされる事となりました。このために取り入れてから1年程は、とてもではありませんがほとんど治療費をいただくことはできませんでした(恐れ多くてといった感じです)。

またその後にPDM21のシンポジウムにも参加させていただきまして、接着治療されている先生方の多さに少しばかりの自信が湧いてきたことを思い出します。

 症例が増えるにつれて疑問点も増えてきた際に、眞坂先生の接着の本が発売されました。本を熟読してからもさらにまた別の疑問点が生じてきたタイミングで、2日間の接着ハンズオンセミナーに参加する事ができました。

 最近になって少しずつですが、症例の見極めができるようになってきたかなと感じております。

 接着治療という手技を得たことにより、1本の歯に対しての診断の仕方が大きく変わったと思います。以前であれば歯根破折イコール抜歯という短絡的な診断だけでありましたが、接着保存という治療の選択肢が増えた事で、より細かい診査や診断が必要とされます。

 実際には破折ではなく、穿孔やレッジ、イスムスやフィンといった感染根管であるケースも決して少なくはなく、破折の名を借りて抜歯されているケースもあるのではないかと思います。。

 エビデンスに頼ればいろいろと楽なのではないかと思うこともあります。しかしながら多種にわたる分野に精通するPDM21の先生方の症例を拝見するにつれ、1本の歯にこだわって診査・診断・治療に奮闘している姿勢が、PDM21の根源なのではないかと感じております。

日々『一期一会』の気持ちで、臨床に真摯に取り組んでおります。

 

経堂えきまえ歯科クリニック               保高 一成