皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。

 

梅雨入りして2週間になりますが、梅雨はどこに行った~とばかりに、連日本州各地で猛暑日の報道がなされています。ここ札幌も今日は最高気温30度と真夏日を記録する暑さとなっています(たった今、札幌市の中心部を流れる豊平川河川敷のランニングコースを2時間程走ってきて、これからこのブログを書くところです)。

 

5月のPDM21web定例会において、長谷川晃嗣先生が最初に発表され、その後私が歯周組織再生療法と根未完成歯の歯牙移植の話をさせていただきました。

 

長谷川先生のご発表は前回のブログにありますように、6年前ティ―スバンクに預けた歯(矯正治療により便宜抜歯された小臼歯を冷凍保存していた)を実際に歯牙移植に使用したという大変興味深い歯牙移植の発表でした。

 

そのため今回の私のブログは同じ歯牙移植繋がりで、私の発表の後半部分、先欠部(後継永久歯のない部位)に根未完成歯の歯牙移植を行った治療例のお話しをさせていただきます。

 

成人の根完成歯を移植した場合、抜歯時に歯髄は神経や血管が断裂してしまうため、術後に根管治療と失活歯に対する歯冠修復処置が必要になりますが、幼若永久歯(根未完成歯)の場合は歯髄の治癒と歯根の発育が期待されますので、術後に健全歯のまま使用することが可能です。

 

先天的に永久歯が1歯~多数歯欠損(先欠)することは決して珍しいことではなく、10人に1人位の割合で発生するのですが、そのような患者さんに対して矯正治療を行う場合、抜歯矯正の抜歯予定歯を移植のドナー歯として有効活用し、先欠部に移植する治療は患者さんにとって大変有益な治療法です。

 

 

 

(症例1)

 

初診時13才の女性の患者さんで、向かって右上(口腔内では左上)の犬歯(〇)と第一大臼歯(〇)の間に本来は2歯の小臼歯があるのですが、この2歯が欠損している状態で歯根の吸収した乳臼歯(△)が1歯あるのみでした。

矯正専門医からの依頼は左上奥の先欠部位に抜歯矯正を行う予定の5 (根未完成歯)を

歯牙移植できないかとの依頼でした。

 

 

 

E E(上顎第二乳臼歯)の前頭面断

 

 

 

 

向かって左は歯牙移植とソケットリフトに使用する器具

中央下はティ―スキーパーネオ(移植中に使用する歯の保存液)

右の4枚は抜歯された根未完成歯(左上)、移植床(左下、ライチのように見えるのが

上顎洞粘膜)、移植床に歯が収められた状態のレントゲン写真(右上)と口腔内写真(右下)

 

移植から2年6ヵ月後、矯正治療終了時です。移植時より歯根は成長し、歯髄腔には

閉鎖を認めます(移植後の歯髄の治癒はこのように狭窄、閉鎖することが多いです)

 

 

今回この歯牙移植を依頼された矯正専門医のプレゼンを、札幌の歯科研究会定例会で拝聴し、

8年ぶりに電話で連絡を取ったところ快諾して来院してくれました。1ヵ所の虫歯の治療もなく

しっかりブラッシングがされており、口腔健康がきれいに維持されていたことに感激!

インプラントにもブリッジにもすることなく、ご自身の健全な天然歯のみの口腔内に多少なりとも

貢献できたことを大変嬉しく思いました(今後は当院にて定期メインテナンスをしていくことになり

ました)。

 

(症例2)

 

初診時13才の女性の患者さんで、左右の赤矢印の部位に本来は左右それぞれ2歯の小臼歯があるのですが、計4歯の永久歯が先欠し、歯根吸収の著しい乳臼歯(E)が残存している状態で

した。

 

症例1は矯正専門医からの依頼でしたが、本ケース(当院の患者さんの娘さん)は反対に私から同じ矯正専門医のT先生に今後の口腔内、歯に関して相談しました。これから萌出してくる第二大臼歯や智歯(パノラマレントゲンをみますと下顎には歯胚が見えます)を上顎左右4歯の先欠部位に上手く有効活用できないものか、長期的な観点で一度みていただき、良いアドバイスをいただけないかと考えました。

 

このまま歯根吸収の著しい乳臼歯を使えるところまで使うのか、そもそも下の写真のように対合歯と噛んでおらず、奥歯は上下第一大臼歯でしか噛んでいないことが大きな問題でしたが、噛ませるようにすると歯根吸収の著しい乳臼歯の脱落を早めてしまう懸念もありました。

 

将来的にはインプラントもしくはブリッジは避けられないのかなと思いつつも、この患者さんのこれから先の長い人生を考えますと、せっかくのご縁で当院に来院されましたので、担当歯科医師として当院の特長を生かせる何かもっと良い手立てがないものかと考えました。

 

 

そうしたところ、下顎の 5 5 を抜歯してE Eに歯牙移植を行ってはどうでしょうかとの返信を  いただきました。確かに下顎の歯列はややディスクレパンシー(スペース)が不足しており、これ から萌出してくる第二大臼歯やその後方には智歯の歯胚もありますので、そういう治療方法も  あるなと思いました(T先生いつもありがとうございます)。

 

 

 

 

患者さんの大切な永久歯(移植歯)です。移植は確実に成功させて且つできるだけ歯髄を温存 できるよう、最適な移植時期(歯根の2/3が完成)をやや過ぎておりましたので、患者さんのお父さんにご説明し、急ぎ移植の準備に取り掛かりました。

 

 

どちらも歯根長に対して、移植床の骨の高さがわずかに不足していましたので、移植窩から上顎洞底粘膜を少し挙上(ソケットリフト)させて移植を行いました。

 

移植後の歯髄治癒率は、根完成歯 0%

根尖孔の幅が1mm以下10%

1~2mm          80%

3mm以上で        95%という論文があり、

1mm以上あれば高確率で歯髄は生存すると言われています。両歯とも根尖孔の幅は1mm以上

あり、移植後、歯髄の生存も無事確認できました。

 

 

 

 

まだこの時点では移植歯にブラケットは装着されていませんが、その後順調に矯正治療は進んでいます。矯正治療終了時には症例1の患者さんと同様、インプラントもブリッジもない、ご自身の きれいな天然歯による矯正治療された歯列になりますので、今後も末永く虫歯にさせないよう、

メインテナンスには来院していただきたいと思います。

 

以上、長谷川先生の発表から3症例、矯正治療により便宜抜歯された歯を上手く欠損部分に有効活用する治療例(歯牙移植ケース)をみていただきました。

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6月に千歳で行われたフルマラソンの出走前

矯正専門医のT先生とのツーショット。向かって右が私