当歯科医院では、患者様が多く来院される。その主訴は、破折により他歯科医院で抜歯が必要と診断されて『なんとか保存できないものか』である。次にまたよく質問されるのは予後や治療法であるので今回は簡単に解説する。

 

歯周組織の破壊と予後

最も治療成績が期待できる病態とできない分かれ目は、歯周組織の破壊の進行度によると思われる。一般の患者様にわかる様に説明すると、破折の部位の深さにもよるが、破折してから長く経過されてから(場合にもよるが3ヶ月以上経過してから)当医院来院された場合と、破折後直ぐに来院されたのかでは、予後の成功率に大きな違いが認められると感じている。破折経過が長い歯牙に関しては歯周組織の破壊が大きい為に、多くの場合骨の吸収も認められる。一方早くに来院された患者様においては、歯周ポケットが深い場合でも、骨の吸収などがCTのレントゲンでも少ないあるいは認められない場合が多い。この様に歯周組織の破壊が少ない患者様は、治療成績が良く、治療後も安定している様に感じている。

しかしあくまでも、ここの予後とは歯周ポケットが正常に戻り、X線で第3者も治療成績が良いと判断できる場合であり、骨吸収が大きかった症例などでは、歯周ポケットが依然に深く、X線で骨の改善がある程度で留まってしまうが、腫れなどの不快症状は改善され、咬むことに全く違和感も無く経過観察を行なっている症例もある。

 

治療方法

基本の原則は『破折した所(破折線)の感染した細菌を除去してスーパーボンドにて封鎖する』ことである。スーパーボンドを使用するのは多くの論文あるいは長年使用してきた使用感からも、生体親和性が非常に良い材料だかである。

実際の治療方法は、歯周組織の崩壊が少ない場合や破折部位が浅い場合は抜歯をせずに、口腔内から破折部位にアプローチし治療する口腔内接着法を選択し、多く治療成績も良好である。(図1)

図1口腔内接着法

一方私は、歯周組織の破壊が大きい場合、あるいは深い場合(歯槽骨に深く達している)は躊躇せずに、口腔外接着法を選択することが多い。初診時に歯周組織の破壊が少ない場合でも(図2)、口外法を選択するのは、根管内の深い部位においてマイコロスコープにてアンダーカットになる様な部分(見えにくい部分)はどうしても破折部位の細菌除去が不完全になり、細菌が増殖の進行が止めらない可能性がある為である。

図2口腔外接着法

 

i-TFCルミナス&スーパーボンドによる築造(光ファイバーポスト使用による支台築造)

 

次に口内法では破折歯の接着と同時にi-TFCルミナスとスーパーボンドにより破折部位より下方に達する様に築造を行なっている。個々の考え方にもよると思われるが、根尖部に関しては側枝の問題などで根管治療のルーチンに従って行うことが最近は多い。

一方口外法では安全に根管内を形成することが可能なので、出来るだけ根尖までi-TFCが届く様に根管を形成して築造する。根管内に長いポストを接着させることには、歯牙の再破折の予防になると考えているからである。

 

クラウン(被せ物)

私は破折歯には、オールセラミックスの素材から作られているVITA ENAMICを使用してクラウンを製作している。この材料は、セラミックスに樹脂を浸透させて作られている材料であり(図3)、強化型ガラスセラミックのe maxと変わらない強度をもちながら、弾性力があり、硬さは歯牙の象牙質に近い材料である(図4)。即ち歯牙に近い材料で、破折歯には打って付けのセラミックスである。

図3ENAMICの構造

図4 EMAMICの性質

以上治療方法や予後などを簡単に記させていて頂いた。

 

いばた歯科

井畑 信彦