歯根破折した歯は「破折線直上の歯根膜」が生活力を失い、この部分の歯槽骨が吸収して炎症、深いポケットが生じます。そこで歯周組織のこれ以上の破壊を防ぐために、破折線を封鎖して細菌の侵入を抑える治療をします。治療後は破折線上に生じたポケットの定期的なメンテナンスを続けることで歯牙は維持され、歯槽骨のこれ以上の吸収が進まない状態が続きます。すなわち自覚的、他覚的症状が軽減またはほぼ消失して病気をコントロールできている状態となります。

このような状況が続くことを「寛解:かんかい」の状態と呼び、寛解が維持されている状態では歯根破折歯は抜歯の対象にはなりません。

 

話は変わりますが、自己免疫疾患である「関節リューマチ」は原因は異なりますが進行すれば、関節の軟骨や骨が破壊されて深刻な機能障害に至ります1)。炎症によって歯周組織、骨が破壊されて機能障害を起こすという点で「歯根破折歯」の症状に似ています。

リューマチ専門医が目指す目標治療として「関節リウマチの目標治療:国際タスクフォース勧告2) があります。これらを改変して歯根破折歯の治療目標に置き換えると以下のように考えられます。

  1. 歯根破折歯治療の目標は、まず臨床的寛解を達成することである。臨床的寛解とは、炎症と自他覚症状の消失を意味する
  2. 寛解を明確な治療目標とすべきであるが、歯槽骨の吸収が進行した患者は、諸症状の軽減を目標とする
  3. 疾患活動性の評価は、中~高疾患活動性の患者では毎月、低疾患活動性または寛解が維持されている患者では3~6カ月ごと定期的に行い、加えてポケットのクリーニングが必要である。患者は、担当医の指導のもとに、「目標達成に向けた治療」について適切に説明を受けるべきである。

 

また関節リウマチにおいては寛解状態を以下の3つに分けて考えているようです、

臨床的寛解: 炎症と自他覚症状の消失を意味する

構造的寛解: 関節破壊の進行がほとんど止まることを意味する

機能的寛解: 身体機能の維持を意味する

 

いずれも歯根破折歯の治療に置き換えて考えると非常によく似ていると思います。

すなわち

臨床的寛解: 歯周組織の炎症がなくなり腫れや不快症状がなくなる

構造的寛解: 歯槽骨は回復せずとも、吸収の進行がほとんど止まっている

機能的寛解: 歯根破折歯が再び咀嚼に参加できるような状態

 

歯根破折した歯牙には「治癒」という形態はありません。

病理的な研究が進み、歯根破折歯の正体が明らかになった現在、最新の材料、治療装置などを用いれば、多くの症例で「寛解状態」、できれば「機能的寛解状態」の維持を目標とする治療が可能と考えています。

まずはきちんとした「寛解状態」になるような処置を専門の先生に受けられることを強くお勧めいたします。

 

参考文献

1)リウマチホットネット:https://www.ra-hotnet.jp/

2)Treating rheumatoid arthritis to target: 2014 update of the recommendations of an international task force

Smolen JS, et al. Ann Rheum Dis 2016;75(1):3-15.

 

寛解はその後にがん細胞が増えたり転移したりする可能性もあるため、寛解の状態を保つために治療や診察を継続する場合もあります。完治はしていないものの症状を抑えている状況です。 寛解はその後にがん細胞が増えたり転移したりする可能性もあるため、寛解の状態を保つために治療や診察を継続する場合もあります。

これを「寛解」と呼びます。

国民病と言われる通常は「初期治療」や「定期的なメンテナンス」によって腫れや排膿、動揺が収まります。しかし一度吸収した骨は完全には戻らず、審美的にも歯茎のラインが大きく退縮して歯冠乳頭部が大きく空くという状態になります。

国民病と言われる「歯周病」は歯周病菌に罹患した歯根膜がどんどん生活力を失い(=死んでしまって)、それに伴って周囲の骨が吸収されて歯牙が動揺し、歯牙周囲のポケットが深くなっていきます。

これに対して

歯周病のように歯牙周囲の歯根膜が生活力を失うのとは異なり、破折線に対応する歯根膜以外は何の異常もありません。

医学的には「がん」や「関節リューマチ」などにする病気が多くあります。

 

長谷川歯科診療所

長谷川 晃嗣