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歯根破折について

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■不適切なメタルポストが歯根破折の主原因 ⇒ 新しい方法へ

曰本におけるクラウンやブリッジの修復状況に関して、生活歯と失活歯の利用頻度を見ると、失活歯の割合がきわめて高いという現状があります。

1.失活歯の利用頻度(丹下1983より)

クラウン(%) ブリッジ(%) 備考
1993 昭和大 88.8 75.4
1994 松歯大 73.4 50.2
1996 鶴見大 94.7 43.4 学生臨床実習
1998 昭和大 87.1 67.8
2001 昭和大 82.1 73.9
2006 鶴見大 87.2 学生臨床実習

さらに、この失活歯の利用頻度を他の先進国と比較してみると、日本は格段に多いのです。これは何を意味しているのでしょうか?

2.各国での失活歯の利用頻度(福島2009より)

国名 頻度 備考
1979 Kerschbaum Th ドイツ 12.9 Cr.Br
1983 丹下幸信 日本 61.8 Cr.Br
1986 karlsson S スウェーデン 31.1 Br
1995 Leempoel PJB オランダ 16.2 Br
2002 Walton TR オーストラリア 28.2 Br

日本の歯科保健制度における低医療費政策に起因するものとも考えられますが、そうだとしても歯髄保存への取り組みが十分ではない、安直に抜髄処置が行われているためではないか、と危惧するところです。

周知のように、歯髄を失ってしまった歯は根尖病巣や歯根破折の問題を抱えるようになります。人生が80年、90年時代となった現在、全身の健康状態に大きく寄与する口腔機能を考える時、あらためて歯髄保存に真摯に取り組む必要を感じます。

原因はともかく、臨床現場においては、失活歯の再治療が多く、加えて歯根破折症例が増加の一途を辿ってます。そして、再根管治療でのメタルポストやガッタパーチャポイントの除去および再根管形成は時間もかかり、高度なテクニックが必要とされるため、これが日常臨床の悩みとなっています。そして、それより大きな悩みが、歯根破折です。

歯根破折は、一般的に「即抜歯」と診断されるため、この問題に対する対応が急がれますが、その第一の原因として、不適切なメタルポストがあげられます。

3.歯根破折予備軍と考えられる、明らかに不適切なメタルポスト(西村2009より)

まれに、有髄歯が真っ二つに割れるということもありますが、これまで眞坂歯科医院における記録についてもこの種の症例はわずかであり、そのほとんどがメタルポストに起因しています。

歯根破折の主な原因となっているメタルポストですが、過去を振り返ると、歯内療法の進歩により歯の保存が多く図れるようになり、その後の補綴の必要から広く施術されるようになった経緯があります。

メタルポストは1975年頃から使われ始め、保険導入された1985年以降は、いわば臨床上のスタンダードな方法となり、それまでは抜歯されていた歯も保存可能となり、歯を保存することで大きな貢献をしてきました。

一方、経済的要因ゆえか、治療条件を満たしていない不適切なメタルポストも残念ながら少なくないのです。それでも、欠損歯数が少なく咬合のバランスがとれているうちは維持することができますが、時間の経過とともに不適切なメタルポストによる歯根破折はどうしても起こってしまいます。

メタルポストの装着歯が増え、その経過が長くなるにつれ、破折症例も増加してしまうのです。

私たちは、1982年の朝日新聞の取材に対して、これから歯根破折が増加すると述べたのですが、現在まさに予想通りの現象が起きています。

メタルポストによる歯の破折の主な原因は、第2章で述べるように、象牙室とメタルにおける弾性係数の差異と、この弾性係数の大きいメタルで装着されたポストが引き起こす楔効果によることが確認されています。

4.支台築造材料の機械的性質(西村2009より)

支台築造材料 圧縮強さ(MPa) 引張強さ(MPa) 弾性係数(Gpa)
金銀場ラジウム合金 480 80~95
銀合金 320~350 Cr.Br
チタン合金 860以上 64.3
充填用コンポジットレジン 255~260 13.7
支台築造用コンポジットレジン 251~356 41~56 11.1~15.5
ハイブリッド型コンポジットレジン 250~320
グラスアイオノマーセント 140~175 20
歯の硬組織
エナメル質 200~442 26~70 47~84
象牙質 232~311 42 12~19

ただし、適切に装着されたメタルポストの場合の経過は決して悪くありません。それでも10年以上の長期経過症例では、歯根破折を生じるものも出てきます。自信をもって施術した当院の受療者にも歯根破折が生じてきます。

今後の治療はどうあるべきなのだろうか?現在は、弾性係数を象牙質に近似させた材料が開発され、使用方法も確立されてきているので、臨床のスタンダードとして歯根破折を引き起こしにくいグラスファイバーポストに切り替えることが求められています。

過去においてはメタルポストに変わる材料がなかったので仕方がなかったとも言えますが、今後もメタルポストを使用し続け、歯根破折という結果になったときには、受療者からの責任を問われることにもなりかねないため、1日も早く転換していただきたいと願うところです。

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