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破折の予防と根築一回法

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■i-TFC根築一回法

i-TFC根築一回法は、補綴装置の脱離や歯根破折を起こしにくい、そして再根管治療が用意にできる方法を求めて、開業医、大学の臨床・基礎の研究者、企業開発部の有志メンバーによって、1997年より10年の年月をかけて構築されたシステムです。

i-TFC根築一回法は、歯根破折の直接の原因となるメタルポストを廃し、象牙質に近似した弾性係数をもつファイバーをポストとし、このポスト中心部に再根管治療を容易とするワイヤーを挿入し、歯質とファイバーポストを良好に接着をし、4-META-TBBレジン(スーパーボンド/サンメディカル)をシーラーとした術式で、これは操作性容易な方法です。市販までには10年を要しましたが、実は1998年末には試作品が出来上がり臨床実験が開始されているので、筆者の診療室では17年余りの実績があります。

近年はマイクロスコープの導入もあって、現在、以下のステップを原則としています。

  1. ポストや根管充填在の除去および根管消毒と根管形成、テンポラリークラウンの装着(装着しなくてすむ場合もある)
  2. 根管充墳と支台築造(i-TFC根築一回法)、印象採得、または調整・装着
  3. 補綴装置の装着

2と3の期間中に問題が生じた場合には、ポストのワイヤーを抜くことで再治療が用意にできるので、わずかな打診痛などの不安感から根管充墳をためらうことがなくなり、来院回数を減らせるようになりました。これは患医双方の大きな利点となっています。

接着の利点を存分に利用したi-TFC根築一回法を行ってきて、エンドの臨床についても見直しが図られることを願っています。歯科医師の行う治療のうち、エンドがらみの再治療が多くを占める現状において、 i-TFC根築一回法への切り替えは大きな意味があります。

また、歯根破折歯の保存においても、このi-TFC根築一回法が基本となっています。

■即抜歯・要補填と診断される歯根破折

歯根破折と判断された場合、経過観察あるいは即抜歯と診断されることが多いです。経過観察というのも問題の先送りにすぎません。臨床現場においては、これが患医関係において大きな問題になります。
例えば、齲蝕であれば充填や歯冠補綴で修復が図られ、重症になって歯髄炎を起こしたとしても、抜髄により処置され、抜歯にはいたらない、また、歯周病においても即抜歯ということはほとんどなく、歯周基本治療があり、その後の外科処置や固定などの医療行為と、セルフケアにより、歯の延命がはかられます。
そして、齲蝕にせよ歯周病にせよ、不幸にして抜歯となった場合でも、それらの歯の状態について、不十分なセルフケアや、症状があった状態での長期的放置など、ご自身の責任の自覚を促し、納得して受け止めていただくことができるため、信頼関係の揺らぎには結びつきません。
しかし、歯根破折の場合は、前述したように、破折イコール抜歯というのが一般的な診断です。無症状でメインテナンス、あるいは軽度の違和感で来院したのに、思ってもいなかった「抜歯」という宣告は、受診者にとっては非常に大きなショックとなります。ことに前歯部、それも女性または年齢が若いほどのその衝撃は大きいと思われます。とりわけ、健康を守ることに熱心である受診者や、審美性を大事にしている受診者にとっては、抜歯後の問題も含め、なかなか受け入れがたい問題でることを十分理解するべきであります。
また、抜歯して補綴治療が必要になった場合は、義歯、ブリッジ、インプラントなどによる補綴が必要となりますが、これには精神的、時間的、経済的負担があり、加えて、インプラントの場合には外科治療による身体的負担も加わることになります。
受診者としては、自覚症状がなく、あったとしてもわずかな違和感なのに、「歯が割れたから抜歯します、その後は補綴が必要です」と言われて、素直に納得できるでしょうか?「その歯が割れたのはどうしてなのか?」と疑問を持つのではないでしょうか?
眞坂歯科医院では、「メタルポストが原因であり、経年的に力を受け続けた結果、メタルポストと歯質との弾性係数が違うために応力の集中が起こって割れた」、「治療した時には、これが最良の治療法と評価されていた」と説明しています。また、当院で処置した症例での歯根破折は、そのほとんどが10年以上経過後の発症であり、それも歯根破折歯の接着治療で再保存しているため、問題は起きていませんが、他院で装着されたメタルポストの説明、それも5年以内に破折してきた症例に対しては、別の意味で苦慮しています。
「歯根破折の主な原因はメタルポスト」と前述しましたが、これよりも大きな要素と考えられるのが、前述したように、技術的な未熟さがあることなど要件を満たしていないメタルポストが破折を招いている場合が多いことです。一方、弾性係数が大きいメタルを使用したとしても、ポストの設計基準を順守し、咬合負担の問題を考慮していれば、少なくとも10年以内に破折を引き起こすことはないでしょう。
保険治療ではメタルポストがスタンダードであること、保険診療で支払われる費用内で材料費、技工料などをまかなわなくてはならず、理想的な形で行うには限界があることなどを、前医の批判にならないよう注意して説明しています。しかし、「前の先生は歯根破折になったことに関して説明はないのですか?」と問い詰められて困惑した経験もあります。
臨床現場ではデンタルX線写真でメタルポストの施術状態が明確に診断できますが、設計基準を満たしていメタルポストの多いことが、現状における残念な事実です。
受診者にとって、「歯根破折→抜歯→補綴」という診断は、受け入れがたいことであるという場面に何度も立たされ、「破折=抜歯」という形ではなく、破折してしまったとしても「次の一手をもって歯を保存できる」ことが、歯科医療への信頼を保つうえで重要であること、また「現在はメタルポストを使わない方法があること」の説明が、受診者の信頼を得るために大切なことであると強く感じています。

■10年維持することが歯根破折治療の前提

現在の受診者は、予防意識も高く、医療への権利意識も高い方が多い、トラブルに際しては十分な説明が必要です。そして、歯根破折の治療は、保険診療ではまかなえないので、ご自身の歯を使い続けたいという方に行う治療となります。
すなわち、歯根破折した歯の保存治療は、歯髄がないことに加え、破折の既往という二重のハンディキャップを有しています。これを適切に保存するためには、コーンビームCT象での診断とマイクロスコープ、超音波切削機を使っての施術が必須となります。また、状況によって外科処置も必要なります。さらに、定期的な経過観察が必須で、再処置を要する場合もあります。
そのため、術後に関する説明と、必要に応じて歯肉弁を剥離して破折部を外から処置する方法や、抜歯して口腔外で処置する再植法が適用となる場合があることを説明し、確認書を取り交わしています。
また原則として、単独補綴を行える場合が適応となり、少数欠損歯列への処置となります。受診者のたっての希望で連結あるいはブリッジの支台歯とする場合もありますが、ロングスパンのブリッジや義歯の鉤歯となる場合には適応を避けるか、耐用年数を短く(5年を基準とする)する説明を行う必要がございます。
これらの説明に対して納得し、了承いただける場合に治療に入る、加えて、診断基準により違いはありますが、施術した歯に関しては、当院の場合、「10年維持できたら満足してください」と説明しています。
補填が絡んだ治療の場合、生涯にわたって治療終了時の状態をそのまま維持できるものではない、当院では比較的穏やかな変化で推移する期間としての基準を10年としていますが、最近はこれを歯根破折歯の治療にも適用しています。一方、この「10年」という設定は、10年で必ず抜歯ということではなくて、そこでは大きな処置が必要になる場合があると伝えています。
また10年の間に、より進んだ治療法が開発される可能性が高いことも説明しています。

■歯根破折予防への取り組み

ファイバーポストを用いた新しい方法(i-TFC根築一回法)に切り替えれば、術式が用意になり、来院回数を少なくし、かつ歯根破折の予防ともなります。また、すでにメタルポストで修復している歯に関しては、定期的なメインテナンスにより、歯根破折が発症しても、早い段階で、診断し重症化しないうちに対処できるようになりました。
それ以前の対応として、接着技術を駆使して失活歯にしない臨床を心がけること、さらには根源的に齲蝕や歯周病にしない「一時予防」が肝要であると確信しています。

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